1分で読む現代語訳・徒然草

キレて騒ぐのはダサい。第106段
「高野証空上人京へ上りけるに」

 徒然草・第106段
      ◇高野証空上人京へ上りけるに

  • 必読滑稽
    俗物な高僧ほどつまらぬものはない

  高野山の証空(しょうくう)という僧侶が上洛した際に、細い道で馬に乗った女とすれ違ったが、馬を曳いていた男が上手く曳きそこなったせいで、僧侶の乗った馬を道端の堀に落してしまった。
  僧侶は激怒して非難。
「これはとんでもない悪行だ。仏には四つの種類の弟子があるが、比丘(びく)より比丘尼(びくに)は位が低い。比丘尼よりも優婆塞(うばそく)はさらに低く、優婆塞より優婆夷(うばい)はもっと低いのだ。
  そんな優婆夷の分際で比丘を堀へ蹴落とすだなんて、未曾有の悪行だ」と言ったので、馬を曳いていた男は
「何をおっしゃってるのかてんで判らない」と答えれば、僧侶は尚更憤って、
「何を言うのか、この無教養な無学な男め」と荒々しく言い放ったものの、とんでもない暴言を吐いてしまったと気付いたようで、乗っていた馬を曳き返して来た方向に逃げて行ってしまった。

  尊い口論だったことだろう。

馬

 徒然草・第107段
      ◇女の物言ひかけたる返事

  • 評論毒舌
    女性から総スカンを食らいそうなまでの言いっぷり

  「女性が言葉をかけてきたときに、即座に上手い返事をする男性は稀である」と言うので、亀山上皇(かめやまじょうこう・鎌倉時代の第90代天皇)の在位のころ、お茶目な女官たちが若い男性が参内するたびに「ホトトギスの鳴き声はお聞きになりましたか?」と声をかけて試したところ、なんとかの大納言やらは
「つまらぬ身の上ゆえに、聞くことができません」と答えた。
  内大臣の源具守(みなもとのとももり・鎌倉時代の公卿)
「岩倉(いわくら・京都市左京区)で聞いたようです」とおっしゃったので
「これは文句のつけどころが無い回答だ。却って『つまらぬ身の上ゆえ』だなんて嫌な言いかただ」と批評し合ったそうだ。

  おおよそ男子というものは女性に笑われないように立派に育て上げるべきものだという。
「九条師教(くじょうもろのり・鎌倉時代後期の公卿)は、幼いゆえに安喜門院(あんきもんいん・鎌倉時代の後堀河天皇の皇后)がよくよく教育したので、おことばが立派なのだ」と人が言っていた。
  洞院実雄(とういんさねお・鎌倉時代の公卿)
「卑しい下女に見られるのも、気が詰まって気苦労させられるものだ」と言っていた。
  もしもこの世に女性がいなければ、衣服や冠の着こなしなどどうでもよくなり、きちんとする人もなくなるだろう。

ダラける男性

  このように男性に気を遣わせる女性というものは、どれほど立派なモノなのだろうかと考えると、女性の本性なんてものは皆、歪んでいるのだ。自分のことばかり深く考え、やたら貪欲で、物の道理を知らない。ただただ迷妄ばかりに傾き、口先は達者になり、かと思えば、公言しても差し支えないことすらこちらから尋ねても答えやしない。発言が慎重なのかというとそうではなく、えげつないことまで聞かれなくても喋る。よくよく考えてうわべを飾ることに関しては、男性の知恵よりも勝るのかと思いきや、言った先からメッキが剥がれているのにも気づきやしない。

  素直でなく愚かなのは女性である。女性のそんな心に沿って、良く思われようとすることは情けないことなのだ。だから女性に気を遣って気苦労する必要などない。もしも立派な女性というものがいるとすれば、それはそれでつまらなく興ざめするに違いない。ただ迷妄に縛られた女性に虜になってしまうと、女性を優美だとかおもしろいとか思うだけのことなのである。

  • 前へ
  • 次へ