徒然草・第98段
◇尊きひじりの言ひ置きける事を書き付けて
しょっぱな、それでいいのか?と思わせる名言
尊い高僧が言い残したことを書きとめて「一言芳談」(いちごんほうだん・直訳すると「短い談話」)と名付けられた書物を見た折に、心に響いた箇所。
一、しようか、やめておこうかと迷ったことは大抵しないほうがいい。
一、来世で福を受けたいと願う者は、ぬかみその壷ひとつすら持ってはいけない。お経の本や礼拝する本尊までも立派なものを持つことはくだらぬことだ。
一、出家した者は、物がないことを苦にしない生き方を心がけて過ごすのが最善の方法だ。
一、高僧は下僧の立場に立ち返り、智者は愚者に立ち返り、富裕者は貧困に立ち返り、有能者は無能に立ち返るべきなのだ。
一、仏道修行の道に入ることは特別なことを必要としない。ヒマな身の上になって、俗世間のことを心にかけないのが第一にすべきことなのだ。
このほかにもあったが、覚えていない。
徒然草・第99段
◇堀川相国は美男のたのしき人にて
古い物ってすばらしい
堀川基具(ほりかわもととも・鎌倉時代の公卿)は、美男で富裕だったため、何でも贅沢を好んだ。息子の堀川基俊(ほりかわもととし・鎌倉時代後期の公卿)を検非違使庁(けびいしちょう・警察庁)の長官に任命して事務を執り行った際に、庁舎にあった唐櫃(からひつ・からびつ・大形の箱)が見苦しいと言って立派に新調しようと基俊に命じたが、
「この唐櫃は大昔から受け継いだもので、いつ作られたのかも判らずに数百年を経ている。歴代の公的な物は古くて壊れていることが価値あるものなのだ。そう簡単に作りかえるわけにはいかない」と故事に詳しい役人たちが申し上げたところ、そのまま残すことになった。
徒然草・第100段
◇久我相国は殿上にて水を召しけるに
- 100番目の段は短いうえに大した内容がない
久我通光(こがみちてる・鎌倉時代前期の公卿・歌人)が宮中で水を飲んだ際、女官が素焼きの器を差し出したところ、「木のお椀に入れて持ってきなさい」と言って、木のお椀で召しあがった。