徒然草・第185段
◇城陸奥守泰盛は
その道のプロの心構え
安達泰盛(あだちやすもり・第184段の安達義景の三男)は、他の追随を許さない腕前の馬乗りだった。
厩舎から馬を出す際に脚を揃えて敷居を軽々と超える馬を見て、「これは性格が荒い馬だ」と言って、鞍を別の馬に置き換えさせた。
また脚を伸ばして敷居に蹄をぶつける馬には、「この馬はどんくさい。ケガをするかもしれない」と言って乗らなかった。
乗馬の心得がない者は、ここまで用心するだろうか。(その道の達人だからこそ念には念を入れるものなのだ)
徒然草・第186段
◇吉田と申す馬乗りの申し侍りしは
引き続いて馬術の心得の話
吉田とかいう馬乗りが言うことには、
「馬はどれも手強いものであり、人の力で敵うシロモノではないと知るべきである。乗る馬をまずはよく見て、その馬の長所や短所を把握するのだ。
続いてくつわや鞍などの馬具に不備がないかを確認し、気になる点が見つかったならば、その馬には乗るべきではない。
この準備を怠らない者が真の馬乗りである。馬術の極意はここにある」
とのことだ。
徒然草・第187段
◇万の道の人
プロとアマの違い
あらゆる道のプロフェッショナルというものは、その業界の中では劣った能力の人物であったとしても、上手なアマチュアと並べれば必ず勝ってしまうものだ。
これはプロが緩みなく慎重に事を運び、軽率な振舞いをしないことと、アマが勝手気ままに練習して上手になろうとすることの違いである。
芸能や所作の善し悪しだけではなく、普段からの振舞いや心遣いにしても、愚直に慎んで行えば成功する。ちょっと得意だからと言って好き勝手やるのは失敗の元なのだ。