1分で読む現代語訳・徒然草

不思議な奇病の第42段
「唐橋中将といふ人の子に」

 徒然草・第42段
      ◇唐橋中将といふ人の子に

  • 故事
    世にも奇妙な病の話

  源雅清(みなもとのまさきよ・鎌倉時代の公卿)の子で行雅(ぎょうが)という僧の師匠がいた。のぼせる体質の病で、年齢を重ねるにつれ鼻の穴が塞がって息ができなくなってきたので、いろいろ治療を試すが悪化するばかり。目や眉や額なども腫れ上がり、顔を覆うほどにまで腫れたので、物も見えず、舞楽の異形の面のようになった顔が、次第に鬼みたいな顔になり、目は頭頂部に、額のあたりに鼻があるなどの形相になった。
  以後は僧坊の人にも会わずに引き籠ってしまって、ずいぶん経ってさらに悪化して亡くなったそうだ。
  こんな病気もあるのである。

寺

 徒然草・第43段
      ◇春の暮つかた

  • 日常
    一歩間違えたらストーカーです

  春の終わりごろ、のどかで美しい空の下、身分が低いとは思えぬ人の住まいがあった。見通せば古い木立に枯れた花と、見過ごすには惜しいと思われて中へ入ってみた。
  正面の格子戸は全て下ろしてしまって寂しい風情だが、東側は戸がほどよく開いている。簾が破れているところから覗いてみると、かっこいい男性で年齢は20歳くらいだろうか、寛ぎながらも奥ゆかしい感じでゆるりと机の上に書を広げて読んでいた。
  どんな人なんだろう。尋ねて聞いてみたいものだ。

読書

 徒然草・第44段
      ◇あやしの竹の編戸の内より

  • 日常
    これも一歩間違えたら…

  粗末な造りの竹の編戸から、たいそう若い男が出てきた。月明かりゆえにはっきりしないが、艶のある狩衣(かりぎぬ)に濃い指貫(さしぬき)の袴姿という風情ある恰好で、小さな子を連れて、遥かに続く田の細道を稲の夜露に裾を濡らしつつ、笛をなんとも言えない趣きで吹き鳴らしている。
  笛の音を聞いてゆかしく感じてくれる人もここにはいないだろうに、どこへ行くのか知りたくなってついて行くと、笛をふくのをやめて、山裾の大きな屋敷の門に入ってしまった。
  停まっている牛車も都で見るのとは違った感じがし、そこの召使に尋ねてみると「しかじかの宮様がいらっしゃっていて、法要でもされるのでしょうか」と答える。

月と雲

  お堂には僧侶が集まっていた。夜寒の風に誘われて漂うお香の匂いも身に沁み込む心地がする。廊下を行き来する女中たちが、風を送って香りを運んでいる心遣いなどは、人気のない山里とも思えない気配りだ。
  なるにまかせて繁っている秋の庭は、夜露が草木から溢れるほどに下りて、虫の音も恨み事を言うように聞こえてきて、遣水(やりみず)の水の流れの音もゆかしく聞こえる。都で眺める空よりも、雲の流れも速い気もするし、月が晴れ間に出たり雲に隠れたりすること絶え間ない。

  • 前へ
  • 次へ