徒然草・第212段
◇秋の月は
兼好も愛した中秋の名月
秋の月は限りなく素晴らしい。どの時季でも月というものは秋の月のようであってもらいたいし、この気持ちを分かち合えない人は大層情けないと思うのだ。
徒然草・第213段
◇御前の火炉に火を置く時は
こんなことにも作法が!
天皇の火鉢に炭を入れる時は、火箸で炭を挟んで入れてはいけない。炭が入った器から直接入れるものだ。それゆえに炭がこぼれ落ちないように注意して、炭を入れるべきだ。
天皇が石清水八幡宮(いわしみずはちまんぐう・京都府八幡市の神社)に行幸された際のことだが、お供をしていた人が浄衣(じょうえ・白い狩衣)を着て、手づかみで炭を入れていた。宮中の儀式に精通した人が言うには「白い服を着ている日なら、火箸を使っても良いのに」とのことだそうだ。
徒然草・第214段
◇想夫恋といふ楽は
雅楽の曲の意外な由来
「想夫恋(そうふれん)」という雅楽の曲は、女が男を恋しく思うというのが曲名の由来ではない。元は「相府蓮」が正しく、「想夫恋」は語呂合わせなのだ。
晋の王倹(おうけん・実際には晋ではなく南朝・斉の学者)が、大臣の時に邸宅に蓮を植え、愛でて出来上がった曲である。このことから大臣のことを蓮府(れんぷ)というのだ。
「廻忽(かいこつ)」という雅楽の曲も、本来は「廻鶻(かいこつ)」だ。かつて廻鶻国(ウイグル)という蛮族の強国があった。漢に服従した後で、廻鶻の民が漢に来て、自らの国の音楽を演奏したのが由来なのである。