1分で読む現代語訳・徒然草

教育はかくあるべき
第184段「相模守時頼の母は」

 徒然草・第182段
      ◇四条大納言隆親卿乾鮭と言ふものを

  • 故事
    確かに鮭とばも上品というイメージはありませんが

  四条隆親(しじょうたかちか・鎌倉時代の公卿、歌人)が、干した鮭の身を天皇のお食事に差し上げられたのだが、
「こんな下品な食べものを差し上げるとは」
と人が言ったのを聞いて、隆親は、
「鮭という魚を天皇陛下に差し上げてはいけないという決まりがあるのならばそうなのだろうが、決してそうではない。干した鮭に何の不都合があると言うのだろうか。干した鮎だって献上しているではないか」
とおっしゃった。

干した鮭

 徒然草・第183段
      ◇人觝く牛をば角を截り

  • 故事
    養老律令の雑令の記述

  角で人を突く牛は、その角を切る。人を噛む馬は、その耳を切る。こうすることで危険な個体だという目印にするのである。目印を付けていない家畜が人を傷つけたとき、それは飼い主の責任となる。
  人を噛む犬を飼ってはいけない。これらはすべて罪となる。養老令(ようろうれい・757年施行)に書かれた禁令なのだ。

馬

 徒然草・第184段
      ◇相模守時頼の母は

  • 必読故事
    昭和期の国語教科書などにも取り上げられた話

  北条時頼(ほうじょうときより・鎌倉幕府第5代執権)の母は松下禅尼(まつしたぜんに)という。
  彼女の家に時頼を招くことがあって、すすけてしまった障子紙の破れたところを、彼女自ら小刀を持って紙を切り回しながら張り替えていた。彼女の兄の安達義景(あだちよしかげ)はその日の世話役として控えていたのだが、それを見て、
「障子紙の張り替えはこちらで承りましょう。そういう仕事を得意とする者がおりますから」
と進言すると、彼女は、
「その男の張り替えの腕前は、私の腕前には敵いますまい」
と答えて、さらに障子を一枠ずつ張り替え続けた。

障子

  義景が、
「一枠一枠張り替えるよりも、全部一気に張り替えたほうが、遥かに簡単でしょうに。新しい紙と古い紙がまだら模様になってしまうのも、見苦しいでしょう」
と重ねて申し上げたので、彼女は、
「私ものちのちは全部一気に張り替えようと思うのだけれど、今日ばかりはわざとこうしているのですよ。物は破れた箇所だけを繕って使うべきなのだと若い人に見習わせて覚えさせるためです」
とお答えになった。大変ありがたい言葉である。

  世を治める道は、倹約を旨とすべきだ。
  彼女は女性とはいえ、聖人の心に通じておられる。天下人をお産みになられたことだけのことはある。まったくただびとではない。

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