1分で読む現代語訳・徒然草

人の老いの哀しみを淡々と綴る
第195段「或人、久我縄手を通りけるに」

 徒然草・第195段
      ◇或人、久我縄手を通りけるに

  • 滑稽日常
    貴人も認知症になるのです

  ある人が久我縄手(こがなわて・京都市伏見区)の通りを歩いていたら、小袖(こそで・装束の下着)に大口袴(おおくちばかま)姿の人が、木で造られたお地蔵さんを田んぼの水に浸して、念入りに洗っていた。
  一体何をしているのだろうと思って見ていると、狩衣(かりぎぬ・一般公家の日常着)の男が2~3人やって来て、
「こんなところにいらっしゃいましたか」
と言ってこの人を連れて去ってしまった。実はこの人は、内大臣の久我通基(こがみちもと・鎌倉時代の公卿)だったのである。

  健康でいらした時には、ご立派で高貴な人だったのだが…

介護

 徒然草・第196段
      ◇東大寺の神輿

  • 故事日常
    第195段の貴人がまだ元気だったころの逸話

  東大寺(奈良県奈良市の寺)にあったおみこしを、東寺(とうじ・京都市南区の寺)の鎮守八幡宮に置いていたのだが、それを東大寺に戻したことがあった。
  そのとき源氏の公卿達が集ったのだが、大将を務めていた久我通基が行列の先払い(貴人が通行するとき、前方の通行人を追い払う)をさせた。それを土御門定実(つちみかどさだざね・鎌倉時代中期の公卿)が、
「神社の前で、そのような先払いをするのはいかがなものでしょうか」
と申し上げたが、
「警備に関しては武家の家柄の者が知っているのだ(だから口出しするな)
とだけお答えになられた。

おみこし

  さて、のちのちになって久我通基がおっしゃったのは、
「あの人は『北山抄(ほくざんしょう・平安時代中期に藤原公任によって記された公事や儀式に関する書)』は読んでいたようだが、『西宮記(さいきゅうき・平安時代前期に源高明によって記された公事や儀式に関する書)』の説を知らなかったらしい。神に従う悪鬼や悪神を恐れさせるためには、神社ではなおさら先払いをする必要があるのだ」
ということである。

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